記事のアーカイブ

民主主義

2019年07月07日 10:30
わたくしが再読する書に『当事者主権』(岩波新書)があります。そこにこういう文章があります。 「(社会の)制度設計の基準を、平均にではなく『最後のひとり』に合わせる。そのためには多数決を絶対視しない。そういう合意形成を可能にするようなラデイカルな民主主義をめざしたい。」 わたくしはこの書から多くの示唆をあたえられていますが、いま引用した文章からもあたえられました。この文章に「民主主義」の語がありますが、この文章から「民主主義」について示唆をあたえられました。今号はそれを書いてみることにします。 この文章に「ラデイカルな民主主義」という表現が用いられていますが、この言い方で民主主義の根本(ラデイカ

「創世記四章―(1)」

2019年06月20日 09:08
1 〈カインとアベル〉   創世記四章は兄カインが弟アベルを殺す物語から始まる。まずそこから丁寧に読むことにしたい。   原初史物語はカインがアベルを殺すきっかけとなったことからしるしている。そこには次のようにしるされている。   4章4後半~5 「主(ヤハウエ)はアベルとその献げ物には目を留められたが、カインとその献げ物には目を留められなかった。カインは激しく怒って顔を伏せた。」   原初史物語はカインがアベルを殺すきっかけとなったのは神ヤハウエがアベルを良しとしカインを良しとしなかったゆえであるとしている。カインはこのことのゆえに〈激しく怒った〉。カ

創世記の洪水物語

2019年06月09日 10:30
 聖書の初めにある創世記に「洪水物語」と呼ばれている物語がある。 この物語の「洪水」は「戦争」を指している。戦争を言い表すのに洪水の比喩が用いられたのは、大災害を生じさせる洪水が戦争の生じさせる巨大な壊滅の事態を言い表す近似の表現であるからであろう。 物語は洪水が何故生じたかについて書いている。それは、当時政治を動かす権力を掌握していた者たちの勝手気ままな、横暴というほかないものによってであった。それが書かれている。 この物語の作者は、洪水という異常気象が生じて地は存続の危機に直面しているとしているが、物語の読者である私たちは、この物語表現の向こうにある、物語作者の言っているところを

「命の保全」

2019年05月21日 16:53
原初史物語は2章4後半から3三章19にしるされているところで一つの単元になっているようで、物語作者が言おうとしていることの一つは述べ終わっているようにおもわれる。これに続く3章20~24にしるされている物語は伝承されていた物語をここに加えたという感じがする。ここではこの物語を採用し加えた原初史物語の編集者の意図を推測してみたいとおもう。   わたくしの推測するところ、原初史物語の編集者が3章20~24の物語を加えた意図の一つは次のところにあるとおもわれる。   3章20 「アダムは女をエバ(命)と名付けた。彼女がすべて命あるものの母となったからである。」   物語

「その後のこと」

2019年05月21日 16:52
原初史物語の作者は〈善と悪を知る知識の木〉の実を食べた人間の〈その後のこと〉について語る。人間が〈善と悪を知る知識の木〉の実を食べたということは人間の生き方を選択したということであった。どういう生き方を選択したのか。   人が〈善と悪を知る知識の木〉の実を食べたということは、確認してきたように、これはこの世の権力を掌握している者に最高の賛辞を呈するということであるが、それは何のためであるかと言うと、この者に〈依存する〉ためであった。人はこれを自分の生き方として選択した。   人がこの生き方を選択した理由は、自分が〈土で造られている〉、すなわち自分が〈もろくよわい〉者である、

スピリチャルズ

2019年05月20日 08:52
スピリチャルズ 下田洋一   いま読書会をしている。読んでいるのは『黒人霊歌とブルース』。著者はジェームズ・コーン、アメリカで活動している黒人キリスト教神学者。 この人は次のことを述べたことで知られている。 もしイエスがアメリカに登場するとしたら、黒人として生まれてくるであろう。というのは、イエスはこの世界に登場したとき、ユダヤ人として生まれたからである、ユダヤ人は苦難の歴史を辿った、イエスは苦難のユダヤ人に自分を同一化した、 そうであるゆえ、イエスがアメリカに登場するとき、苦難を強いられている黒人として生まれてくるにちがいない。 この黒人神学者は、黒人の歌である「スピリチャルズ」(

偏見と先入観

2019年04月30日 16:46
こんかいは購読の新聞に掲載の「ヘイトの構造」と題する、斎藤美奈子(文芸評論家)という方の文章を紹介する。 「3月15日、ニュージーランドで起きた銃乱射事件。これはどう見てもヘイトクライム。思い出したのは「ヘイト(憎悪)のピラミッド」だった。ヘイトスピーチ関係の本にはよく出てくる概念で、五層構造のピラミッドは、下から順に①偏見や先入観、②偏見や先入観に基づく行為、③差別行為、④暴力行為、一番上は⑤集団虐殺。「殺せ」「死ね」「叩(たた)き出せ」などのヘイトスピーチを放置したら、やがてヘイトクライム(暴力や虐殺)に発展するという悪夢のような構造である。 逆に言うと、一件の虐殺事件の背後には多くの暴力

「誘惑」

2019年03月22日 16:33
創世記2章からの原初史物語の作者は〈人間〉に集中させてこれを扱うのであるが、この物語作者が扱う〈人間〉は〈善悪を知る知識の木〉の実を食べる人間である。ここは原初史物語における最も重要なところであるとおもわれる。ここも丁寧に読んでゆこう。   3章1 「主なる神が造られた野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった。蛇は女に言った。『園のどの木からも食べてはいけない、などと神は言われたのか。』」   ここには寓話が用いられているが、蛇の開口一番の言葉はこうである、〈園にあるどの木からも食べてはいけない、などと神は言われたのか。〉この蛇の言葉は2章16~17にしるされている神が言

人間であること

2019年03月22日 10:30
新聞の報道を読んで気になるのは国の重要な事項に関し忖度(そんたく)で物事を決めることが続いていることである。 忖度するとは自分なりに考えて他人の気持ちをおしはかること、すなわち、忖度するとは他の人のことを配慮すること、つまり、良いことをすることである。だが、今日、忖度という言葉で言われていることは、そういう良い意味においてではない、むしろその逆である。 自分の上にいる者に気に入ってもらうために、いろいろなことを画策する。たとえば、記録を書き変える、事実を隠す、嘘を突き通す、こういったことをする言葉として使われている。人がこの意味での忖度をするとき、その人から失われるものがある。 この問題に関し

沖縄の海

2019年02月09日 10:30
沖縄の辺野古の海に土砂が投入され、沖縄の美しい青い海が黒ずんだ色に変わってゆく、その様がテレビの画面に映し出されていた。心痛んだ。テレビ画面で見るだけで心痛むが、これを直に見ている沖縄の方々の痛みは、いかばりであろう。痛みの深さは察するにあまりある。 海が汚されるということで思い起こすのは熊本の水俣の方々のことである。企業の排出した水銀で海が汚染され、悲惨極まりないことが起こった。水俣病を強いられた方がこう言っておられるのを本で読んだことがある。それをしるしておきたい。 海は自分たちの魂が帰ってゆく所。海が汚されるということは魂が帰って行く所が汚されるということ。海が汚されれば、魂の帰ってゆく
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