スピリチャルズ

2019年05月20日 08:52

スピリチャルズ

下田洋一

 

いま読書会をしている。読んでいるのは『黒人霊歌とブルース』。著者はジェームズ・コーン、アメリカで活動している黒人キリスト教神学者。

この人は次のことを述べたことで知られている。

もしイエスがアメリカに登場するとしたら、黒人として生まれてくるであろう。というのは、イエスはこの世界に登場したとき、ユダヤ人として生まれたからである、ユダヤ人は苦難の歴史を辿った、イエスは苦難のユダヤ人に自分を同一化した、

そうであるゆえ、イエスがアメリカに登場するとき、苦難を強いられている黒人として生まれてくるにちがいない。

この黒人神学者は、黒人の歌である「スピリチャルズ」(邦訳では「黒人霊歌」)に関心を注ぐ。この神学者によると、そこには、〈天国に行こう そこには自由と平等がある〉 という主旨の歌詞が多いという。

この神学者はこのことを紹介した後、こう述べてゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

これまでのキリスト教神学は、黒人霊歌に吐露されている黒人キリスト者の信仰を苦難の現実から逃れるための「アヘン」でしかない、と批判する。が、その見方は、黒人キリスト者の信仰が何であるかについて無知であることを示していると言わなければならない。

黒人キリスト者は天国に行きイエスに会いそこには自由と平等があることを夢見る。黒人キリスト者はこうすることによって、白人の奴隷主からの苛酷な扱いの中にあってなお、正義とは自由と平等があるということであること、そういうことであることを見失うまいとした。

黒人キリスト者の歌の「スピリチャルズ」に吐露されている「天国信仰」は、正義がまったく見出せない状況と事情の中で、正義は必ず成るという信仰を捨てなかったということ、それを物語っている。

わたくしは、このように述べる黒人神学者の文章から改めて新しい刺激を受けた。わたくしの場合、黒人キリスト者のように天国に行きイエスに会い正義を知る夢を見るには至っていない。だが、福音書のイエス物語を読んで、なんとかそれに準じるようにないたい、と願っている。