箱舟の中
創世記の箱舟物語によると、神は人間ノアに生きとし生けるもの七種が箱舟に入るようにせよと命じます。この「七」は「全て」を意味するので、ここで神が命じたことは生きとし生ける全ての種類、すなわち、生きとし生けるものの多様さを確保せよであります。この箱舟物語によると、さらに、
神は「清くない」もの七種が箱舟入るようにせよと命じます。この「清くない」は人間が定めた法や通念においてそうであるされたものでありますので、ここで神が人間ノアに命じたことは「清くない」と定めた人間の法や通念を全て棄てよということでした。ノアはこれを実行しました。
この箱舟の中は、生きとし生けるものの多様さがあふれ、その多様さの間に優劣は全くなく、平等に共存し共生する社会があった。これが創世記の描く箱舟物語であります。
ハンナ・アーレントはヒトラーのおこなったユダヤ人絶滅計画の何が問題であるかを指摘して、こう書いています。それは
「複数性」の排除という問題であると。彼女は言います、これは人類に対する犯罪であり、人間そのものを否定する犯罪である、なぜなら、複数性・多様性が人間であるということなのであるから。彼女はこう書いております
この複数性・多様性の排除ということはこの国日本の歴史においても起こりました。ただこの国では次の形において、すなわち、政権中央は同化を強制し、それに従わないときは排除する、また、「少数者」を「隔離」し、事柄が分からないようにするという形においてでありました。
この歴史の問題の克服がわたしたちの責任課題であるわけですが、このわたしたちに示唆を与えてくれるものがあります。それは創世記の描く箱舟物語であると、わたくしにはおもわれます。
そこに描かれていることは、初めに書きましたように、生きとし生けるものの多様さが確保され、その多様さの間に優劣はなく、平等に共存共生する、そこには「少数者」を「隔離」し、事柄が分からないようにするなどということは起こり得ない、その事柄はみんなの関心事であるから。
創世記はこういう示唆を与えてくれております。これからも読んでゆこうとおもっております。