風 刺
〈土人〉という言葉は差別語であるが、〈土〉と〈人〉の間に〈の〉を入れると、〈土の人〉となり、これは聖書が人間を言い表すときの言葉となる。それが出ているのは聖書の初めにある創世記である。
その創世記によれば、人間は〈土〉で造られた。〈土〉という言葉で意味されていることは〈こわれやすさ〉。創世記が人間は〈こわれやすい〉ものと語るとき意図があった。
時代はソロモン王統治のとき、国は栄華を極めていた。それは国が武力によって周囲の諸民族を鎮圧したことによって得られた。国が栄華を極めるために必要な武力は〈強い者〉が担うのであって、〈こわれやすい者〉は役に立たない。
創世記が人間は〈土で造られた者〉すなわち〈こわれやすい者〉であると語ったとき、〈強い者〉を優遇し、〈弱い者〉を切り捨てたソロモン王政に対
し問題を提起したのである。
創世記は語る、ソロモン王政は人間を土で造った天と地の創造者なる神の意思に反するものであると言うほかない。
創世記によると、人間は〈善と悪を知る知識の木〉の実を食べたことによって〈土で造られた〉〈こわれやすい自分の姿〉を恥じるようになり、〈いちじくの木の葉〉で自分の姿を隠すに至る。
この自分の姿を隠すための〈いちじくの木の葉〉は〈下着〉ではなく〈上着〉を指す。その〈上着〉は栄華を競う〈きらびやかな衣装〉となっていったが、その最高のものはソロモン王政においては国が仕立てた〈見事な武装〉という衣装であった。その〈見事な武装〉いう衣装、それは自分の弱さを隠すためのものであった。
創世記は自分の弱さを隠す〈見事な武装〉という衣装を〈いちじくの木の葉〉でたとえた。つまり〈すぐに枯れてしまうようなもの〉で着飾っているにすぎないと、ソロモンの仕立てた〈見事な武装〉を〈風刺〉したのである。この風刺、面白い。